思い出の中3の恋を私小説風に美化して書く。
中学3年の寒い冬の朝のこと。
その日、いつものように通学しようと実家の急な階段を降りました。
玄関で靴をはき。アコーディオンカーテンを開けるとそこはカメラ店。
当時実家は小さな街のカメラ屋を営んでいました。
店の入り口にあるガラス扉に目をやると、景色の中にポツンと女子が立っていました。
誰だろう。目を細めて顔をよく見ると同じクラスのKさんがいます。
なんでKさんがこんな所にいるんだろう、、おかしいな。
そう思いながら扉を開けて外に出ました。
Kさんの方を何となく気にしながら歩きだすと、足早に僕の方に走ってきました。
「これ貰って下さい。」
なんとKさんは僕にマフラーと手紙を手渡してくれたのです。
太い毛糸の手編みのマフラー。
色は冬空のような薄い水色をしていました。
僕は驚きながらそれを受け取り呆然としました。
そこで事態を把握しました。
これはあれだ、こ、こくはくだ。告白。
冷たい冬の空気が一瞬止まりました。
次の瞬間僕は身をひるがえして反転。
店のガラス扉を慌てて開け自宅に入り靴を脱ぎ、急な階段を駆け登りました。
ハアハアと息をつきながら自室に入る。
落ち着け。落ち着けと自分に言い聞かせながらひと呼吸。
手にあるマフラーを部屋の片隅に隠すように置きました。
女子から貰った手編みのマフラーをこのまま持って学校に行ったら、クラスの男子にどんなに冷やかされることか。容易に想像がつきます。
手紙はカバンの中に素早くしまいました。
そして水色の手編みのマフラーを一瞬じっと見て、心の中でうなずき、そしてまた同様に走ってKさんの元に戻りました。
こうして彼女と密かな交際が始まりました。
彼女と僕は同じクラスでありながら、それまで1回も話をした記憶がありませんでした。
去年隣り街の豊川市から転校してきた彼女は友人も少くなく、そのせいか静かでおとなしい雰囲気の女子でした。
そんな彼女が僕の自宅まで来て積極的に告白してくるなんて、その行動力に驚きました。何故僕に好意を持ってくれたのでしょう。
思い当たるフシがまったく無いので戸惑いました。
当時の僕はマンガを友達と2人で描いて同人誌を作ることに熱中していました。
なので中学生女子にモテる要素は薄いと自覚していました。
そんな僕が女子から告白される事は奇跡だと感じていました。
当然人生でも初めての事です。
戸惑いながらも、交際を断るという発想はまったく浮かびませんでした。
毎朝彼女は通学路の途中である僕の家に来てくれました。
カメラ店の横の小さな駐車場で顔をあわせます。
「おはよう」
小さな声でお互い短い挨拶を交わしますが、その後が続きません。
学校までの10分間の距離をただ無言で歩くのです。
冷たい風のせいか彼女の白い肌よけいに薄く見えます。
魚屋の前を通り、洋菓子屋の前を通り、つぶれそうな小鳥屋の前を通ります。
2人の目の前に何があっても無言。
はじめての男女交際というものをどう扱っていいのか分からなかったのです。
ただその実体の無いものを壊さないように息をひそめ丁寧に運ぶような。
そんな通学が続きました。
そんな空気に耐えきれなくなったのか、ある日の朝。
交換日記
そう表紙に書かれた茶色のノートを彼女は手渡してくれました。
色を何色か使ったペンの線が踊っています。
1ページ目はすでに彼女により記入されていました。
学校の事や好きなマンガの話。バンドの話などを日記に書きました。彼女もそれに答えるような事。進路の事など自分の事を少しづつ書いてくれました。
ある朝、彼女の髪型がポニーテールになっていました。
それを見て、僕が交換日記の中に
「好きな髪型はポニーテール」と
書いた事を思い出しました。嬉しいような恥ずかしいような、まあ嬉しいような。
そこでやっと絞り出すように出た言葉が
「ポニーテールだね」
「うん」
そんな簡単なふた言に今まで言えなかった沢山の感情が詰まっているようでした。
彼女も少しだけ笑っていました。
それからもう少ししたら春がきて
僕達は中学を卒業しました。
そうして彼女と逢う事は自然となくなってしましました。
冷たい冬の朝の空気を吸うとすっかり忘れていたはずの事を思い出します。
あの時、勇気を出して告白してくれて本当にありがとう。
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よくぞ書いた自分!はずかしいをのりこえて、、。
読んだ方もごくろうさまでした。
今回はひとり暮らし先生の文章の幅を広げるトレーニングだと思って読んで下さい。
先生は先生の好きなようにブログを書くのだ!自由だ!ここは自由なんだ