小説「太平洋ベルトin日本武道館」を終えて
結成15年目でとうとう日本武道館にたどり着くことができた。
それなりの感慨がこみ上げてくる。
が、
今はそんな感慨にふけっている暇は無い。
調子に乗ってアンコールを４回もやってしまったせいで
予定終演時間を１時間もオーバーしてしまったのだ。
スタッフ全員が殺気だって走り回り撤収作業に追われている。
「さっさと運べ時間が無いぞ！」
新人バイトが先輩に怒鳴られている。
すまない
楽屋には中打ち上げようにシャンパンタワーを作ってしまったが
使う間もなく、慌てて片付けられていく。
割れないようにとプラッスチック製のグラスにしておいて良かった。
ベース担当、本さんの楽屋には
キリン氷結生ストロング「ゆず味」500ml（現在販売停止のもの）を
今日のために240本（10ケース）ステージドリンクとして用意されていた。
それをお祝いにと本番前からメンバーからスタッフみんなに飲ませてしまったせいで
全員酔っぱらっているのが見て分かる。
今日くらい良いだろうと思ったのは間違いだった。
かくいう自分もステージ衣装のズボンを前後反対にはいている。
ドラム担当のケマリさんは衣装そのものを愛知県、稲沢の実家に忘れてしまっていた。
その事にリハ後気づき、慌てて電話。
母親が新幹線に乗って武道館まで届けてくれたから良かったものの
あの時は心臓が止まるかと思った。
なんて思っている間にも
「早く楽屋の荷物を搬出口に持って来て下さい！」
と叫ぶ声がする。
打ち上げ会場へはタクシーに乗って移動した。
さすが日本武道館を終わったアーティストだ。
会場となった「豪快居酒屋 だるま道場 水道橋店」では悪夢が起こっていた。
スタッフ皆に来て欲しいと250名入る店を貸切にしていた
が撤収作業が終わらないということで
メンバー３人とアナゴのメンバー（数人しか）会場に来ていないのである。
無人の机の上に
「飲み放題付き宴会コース2980円」の料理が250人分ずらりと並ぶ。
恒例の本さんからの挨拶
「乾杯！」
広い会場に本さんの声だけが響く
さすがにそのセリフを聞いた瞬間嬉しさがこみあげてくる。
今は全てを忘れて飲もうと思う。
お酒を飲まないケマリさんはこの日も「２杯目からコーラ」。
しかし少ないこのメンバーで飲んでいるとタイトロープの後に
「サイゼリヤ」にいる状態となんら変わらない。
それはそれでいいものだけど
「今日！オレたちは！日本！武道館！でライブをやったのだーー！」と
大きな声で叫びたい！みんなと分かち合いたい
関係した人全員と乾杯をしたい
あと褒め上手な人に
「的確に褒めて欲しい！」
と思うのは贅沢というものなのか？という話をダラダラしながらお開きとなる。
今夜は奮発して五つ星ホテル
「ザ ペニシュラ東京」に宿泊。
夜更けに雨が降ってきた。
ベッドに入っても
ライブ中の光景が脳裏から離れないでいる。
高い位置からの照明が眩しい、イヤモニの向こうから大歓声が聞こえる。
日本武道館コンサートを終えた他のバンドマンたちは一体どういう気持ちで
この夜を過ごしているのか。
身にあまる歓声をどう受け止めて良いものか。
調子に乗ってはいけない。これは一時的なものだ。
と自分に言い聞かせつつも顔は笑っていた。
喉が乾いた、さすがに飲みすぎた。
ベッドを離れペットボトルの水を一気に飲む。
ほっとして深呼吸をする
最近マインドフルネスを始めたのだ。
しかし雨の音がやけに大きい
天気予報では雨とは言っていなかったはずだ。
あれ？
いや、これは
あめの音では無い。
慌ててカーテンを開けて窓の外を見る
そこには無数のお客さんが
ホテルをとり囲むように集まっていた。
まさとしほんじょうけまりよしかわじょうけまとしじょまよまとけさましさ、、、、、、、、、、
みんな大声で叫んでいる。
メンバーを呼ぶ声が混ざり雨の音のように聞こえたのだ。
寝る前に
「ペニシュラ東京でルームサービス！」と
写真付きの自慢ツイートをしたせいでお客さんが集まってきてしまったようだ。
その光景を別室で見ていた
ケマリさんが
「月はとうきょうどうむですね」
とツイート
いいねが5000ついた
東京ドームはまだ遠い、、、
次は東京国際フォーラム（キャパ5000）だなと思った
終わり
